日本船舶海洋工学会 関西支部 海友フォーラム K シ ニ ア
Kシニア の トップに戻る 海友フォーラム の トップに戻る 2008年 の トップに戻る


要約・地球の歴史  file−1

1 プロローグ

 海友フォーラム第3回懇談会(平成20年1月9日)で行ったスピーチは、時間不足となり、中途半端で終わることになりご迷惑をかけました。このような歴史物語は、スライドよりも、ゆっくりと見る「文章と図表」の方が解り易いと思い、内容を再編して題名を 「要約・地球の歴史」 と変え、ここに纏めました。

 かつて、旅客船の仕事をしていました頃、大先輩から 「客船の内部は社会の縮図のようだ」 と云われたことがあります。 これは 「ぶつ切りの知識で、独りよがりな設計をしないように」 との教訓であったと思います。 ここで云う客船は、現在のクルーズシップではなく、100年前の大西洋定期客船のことです。 例えばタイタニックがそうです。

 米国で大成功した成金、落ちぶれて気位だけが高い旧世代の長者、ビジネス商人、サラリーマン、官吏、普通の人、生活に困窮して海外脱出を図る庶民、生活費を稼ぐ火夫、封建生活に忠実な船員等々、あらゆる階層の旅客が客船内に、区画を別にして、乗船していました。 20世紀初頭のヨーロッパ社会は、産業革命に疲弊、貧富格差が拡大し、人々は苦しんでいた時代でした。 その社会が、その儘、一隻の船内に圧縮されたのが当時の大西洋定期客船でした。

 著者は、それ以来 「歴史物」 に興味を持つようになり、「海運・造船史」 を皮切りに 「科学史」、「世界史」、「民族史」 等に親しみ、時代を遡るにつれ、興味は 「人間の歴史」、「地球の歴史」 の方向へ拡がりました。 30年程前、竹内均教授の 「地球に関する本」 を読み、プレートテクトニクスに興味を感じ、ウエゲナーの大陸移動説やパンゲア超大陸の話に感心したりしました。 地球マントル内部の有様は未知の時代でした。

 数年前、名古屋大学、熊沢峰夫教授、東京工業大学、丸山茂徳教授他の文献1),2)(本文末尾記載)を読み 「プルームテクトニクス」 を知り、興味深い内容とスケールの大きさに感動しました。 さらに、インターネットで米国ウイスコンシン大学、地質学科、World Platesの世界地図を見て、探し求めていたものを見出したような気分になりました。 この地図も、説明を解り易くするために、描き直して、引用します。

 さて、近年、地球研究は 「地球科学」 と称して、各学問分野、共同で行われています。 電算技術、理化学技術が総合的に使用され、大きな成果が挙げられています。 「地球の歴史」 は今では単なる学問に留まるものでなく、「地球温暖化問題」 を含め、今後の 「生物と地球環境」 の課題を解決するため不可欠なものとなっています。 船舶工学も地球総合工学の一つとして位置付けされています。 興味の在る方は、是非本文を一読下さい。そして討論戴ければ幸せです。


2 原始地球成長の経緯  (Fig.1, Fig.2 に創世期から磁気発生までの地球断面を示す)

 地球の歴史を語る場合、この項目は割愛できない。 原始太陽の惑星として原始星雲のダストが凝縮し、珪酸塩岩と鉄分の塊となった。 こうして生まれた地球は、次々と隕石に衝突し、合体を繰り返し、3,000万年程かけて原始地球ができた。
 原始地球は金星(表面温度500度C)と火星(表面温度-50度C)の中間、太陽から約1億5000万kmのところに位置し、生命の生存条件 「水が液体を保つこと」 に適合し、また熱エネルギーを永く保ちうる核になる金属(鉄・ニッケル)を多量に有していたことは奇跡であったと思う。

 地球がかなり成長した時、火星程の大きさを有する宇宙体と衝突し、合体して月が誕生した。この出来事をジャイアント・インパクトと云う。 衝突熱と温室効果で、地球表面は火の玉、マグマ・オーシャン化し、重い鉄は岩石の間をすり抜けて中心部に集合して原始地球が出来上った。 それは45.5億年前の出来事であった。


           Fig.1   43億年前地球断面       45.5億年前地球断面    文献1),2)


          Fig.2   27億年前地球断面       40億年前地球断面    文献1),2)

 水蒸気と二酸化炭素の外気は、マグマ・オーシャンの熱により蒸発して海ができない。 43億年前、ようやくマグマ・オーシャンは冷えて上部マントルができ上がった。 コマチアイト質(緑色のガラス質、原始マントルが凝結した石)の固くて薄い地殻ができ、ひび割れて、上部マントルだけの対流が始まった。 下部マントルは別途、独自に対流した。 二重対流方式である。

 40億年前、やっと冷えて海ができ、大気中の二酸化炭素は海に溶込んで温室効果を喪失し、地殻の温度は急速に低下し、本格的なプレートテクトニクスが始まった。 当時のプレートは高温で、含水が多く、浅い角度でマントル内に沈込んでマグマを生じ、地球最初の花崗岩が生成された。

 上部マントル内部だけの対流なので、プレート長さは短かく、多数の島嶼ができ上った。 プレートの溶け残り(ガーネタイトと云う)は、島嶼の下側に巨石となって残留していたが、27億年前、一挙に雪崩が崩れるように下部マントル底へ崩落した。 入替わりに下部マントルが上昇する。 「マントルオーバーターン」がこの時初めて発生した。 そして、上部マントルの岩石は崩壊し、マントル底から地表までの一層対流に移り変わった。 外核は激しい対流を起こし、地磁気が発生し、バンアレン帯が出現、生命体の浅海生存が可能になった。

 陸地の浅瀬にシアノバクテリアが大量に発生し、集団集落ストロマトライト(バクテリアの粘液で造られた柱状石)ができる。 シアノバクテリアの光合成機能で酸素が放出され、海中の鉄イオンと結合して大量の赤鉄鉱が海底に堆積した。 現在の世界鉄鉱山の源が誕生した。 そして、大陸形成のウイルソンサイクルがスタートした。


3 地球活動のメカニズム


                      Fig.3   現在の地球の断面    文献2)

 Fig.3は現在の地球断面の略図である。 地球半径は6400km、核の半径は地球半径の約1/2を占め、内核は鉄・ニッケル主体の固体、7000度C、外核は液状鉄・ニッケル、4000度C、激しく対流し、強い磁気を発生している。 マントル表層の内側670kmに境界層(温度・圧力が低く化学反応が下部と異なる)がある。 境界層は1600度C、地殻は厚さ約7kmの海洋プレート、厚さ40-60kmの大陸プレートから成る、海洋プレート温度15度C。 地球内部は高圧で下部マントル内圧力20ギガパスカル以上と想像を絶する値である。 生物生存圏は海陸合わせて厚さ10kmの範囲である。

 プレートは海洋中央海嶺から左右に押出されて海底を水平に移動し、大陸縁近くの海溝に至り、マントル内に沈込む。 海嶺の下の下部マントルには巨大なきのこ状の上昇対流の柱、スーパーホットプルームが在る。 プルームの語源は「煙突の煙」から来ている。 上部マントル内で枝分かれして海嶺に繋がる。 海溝部、大陸の下側には巨大な下降対流の柱、スーパーコールドプルームがある。

 プルームとプレートの組合せにより地球中心部から表面までが一層対流を形成し、中心の熱エネルギーを対流に乗せて運搬し、海嶺部および海溝でマグマを生じ、宇宙に放熱する。 種々の境界層が存在するので、熱エネルギーの放出活動は非定常、カタストロフィック、また間欠的である。 特にプレート沈込部には、プレート残滓が巨大な塊(メガリス、神話の巨石の意味)となり、落下せずに残留する。 そして、何億年かのサイクルで、雪崩のように崩落する。 前述の「マントルオーバーターン」が起こる。

 27億年前以降、このサイクル運動が続けられ活性、不活性の活動が交互に繰返えされた。 「非定常活動」 のもう一つの理由は、マントルの岩石群が不均質で、それぞれ融点が異なり、放出されるマグマ量が時として変動することである。 現在のスーパープルームは7億年前に南太平洋に、2億年前にアフリカにホットプルームが出現し、4億年前にアジアにスーパ―コールドプルームが発生し現在も存在している。

 南太平洋スーパーホットプルームが太平洋を造り、アフリカスーパーホットプルームが大西洋を出現させた。 アジアスーパーコールドプルームはユーラシア大陸を拘束している。 これらのスーパープルームは1980年代の地震波トモグラフィー開発・地球の内部透視によって確かめられた。

 Fig.4(次に示す)に日本列島における、地震波トモグラフィー断面図の一例を示す。 図の青色(温度が低く、地震波伝播が速い)で示されているのは、「沈込みプレートの残滓が残留し、または落下中、或いはマントル底に堆積している」 有様である。 これにより、スーパーコールドプルームの存在が確認できる。 Table 1に過去、超大陸形成の経緯を示す。 「崩落」 と云えば、瞬間に落ちると解釈できるが、地球の歴史では、マントル底への崩落に1千万年を要した。 人類の歴史などは 「瞬間の瞬間」 である。 地球史は信じられない程、壮大なスケールである。


               Fig.4  日本列島における地震波トモグラフィー地球断面 



                         Table 1   超大陸形成の経緯


4 生命誕生と進化

 最古の生物として35億年前の好熱性バクテリア化石が発見されている。 諸般の状況から40億年前位に、生命誕生があったのではないかと云われている。 生命誕生には蛋白質、RNA、DNAおよび脂質(細胞膜を形成する物質)、すなわち生体構成成分が存在していなければならない。 何らかの原因でそれらが存在しているところに、そこに太陽、宇宙線、熱、放電、熱水循環、隕石衝突、衝撃波等が作用して、生命が誕生したと云う仮設が立てられているが未だ謎である。

 祖先の生命が進化を重ね、現在の生物ができた次第だが、最新遺伝子化学の、生体遺伝子塩基配列に基づいた研究から、共通祖先は好熱性細菌だったらしいと、幾つかの研究グループが推定している。 この細菌は現在でも高層ビルのボイラー等から発見されているが、太古の海底で海嶺の熱水噴出穴付近に棲息していた化石が思い出される。

 「共通祖先は高熱性細菌一つだけらしいから、生命の点火現象(無生物が生物に変わる現象)は一度だけであったのではないか。」 と リチャード・フォーティは文献4)で述べている。 また、生命は宇宙から飛来したのではないかと云う説もある。

 27億年前シアノバクテリアが出現し、25億年前、真核生物が海底を這うようになり、10億年前、多細胞動物が現れ、7億年前、海底にはエデイアカラ軟体動物(この化石が発見された豪州の地名に因んで名付けられた)。 浅海には藻類が全盛を誇ったのである。 35億年間は、「細菌と原生生物」だけの世界であった。

 生物の多様化は 「性の分化」 によって加速された。 両親から受継いだD.N.A.を組合せる方法によって遺伝的多様性が容易になった。 細菌に次いで植物が先行して発達し、動物はその後に続いた。 植物は 「光と水」 さえあれば生育するが、動物は食物確保の難題を背負い、生存競争に負ければ絶滅が待っているから、植物の発展に従属した。

 動物・植物が大進化を遂げたのは、地球史年月の僅か1/10、5億年前以降のことであった。 ダ−ウインの進化論では、生物進化のメカニズムは 「突然変異」 と 「適者生存」 である。 突然に偶然に獲得した形質のうち、環境・生存競争に適するものだけが生き残ると云う競争原理の説である。 19世紀の学説であるが、未だに研究課題の一つであるようだ。 これに対し、生物自体が有機生存体を造り、生存と進化に都合がよいように地球環境を制御してきたと云う説と、一方、地球環境の変動が積極的に生物進化に関与してきたと云う説がある。 すべては今後の研究で解明される問題である。 ウイルスのように他の生物の細胞内に入り込んで、生殖するものもある、細菌・ウイルスは環境に即応して、容易に 「突然変異」 し、環境に都合がよいように変身してしまう。 そこには 「頭脳とか知力」 は存在しない。 一方、人類(ホモサピエンス)は誕生以来20万年間、進化していない。 昨今の 「新型インフルエンザ対策」 を取上げても、遺伝子をコントロールできる知力を持ちながらウイルスとの戦いに悪戦苦闘中である。 「突然変異のメカニズム」 等、生物問題に関しては、未知のことが多いと痛感する。 「生命の神秘」 がより解明される日が待たれる。 


目次に戻る    file−2に進む