日本船舶海洋工学会 関西支部 海友フォーラム K シ ニ ア
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EU と CESA ― 欧州の統合と欧州造船   2011.3 Kシニア 岡本 洋

――「海友フォーラム」第12回懇談会(2011.2.24 )において発表した同じ表題の
(Power Point本文28駒)の説明として作成――

 CESA , Community of Europe Shipbuilding Association (欧州造船工業協議会 又は 欧州造船協議会とよばれる) は、欧州16カ国の造船工業会をメンバーとし、総傘下造船所は373をかぞえる独立組織であり、創設は1937年に遡る。
 直接的に関係ないとしても欧州全域の造船産業を取り纏めるものあるから EU, Europe Union, 欧州連合(又はヨーロッパ連合)と強く連携している。
 今回の懇談会の主題は「欧州の造船」であるので、この点からも EU 抜きで語ることは出来ない。・・・

                        目 次
1. はじめに     2. EU、ユーロ、CESAの加盟国
3. 欧州統合にむけての動き     4. EU設立経過より統合へ
5. EUの規模、所在     6. EUの組織・機能と運営
7. EU統合の功罪と最近の問題     8. CESAの設立経過
9. CESAの活動の概要     主要参考文献




1.はじめに

 CESA ,Community of Europe Shipbuilding Association(欧州造船工業協議会又は欧州造船協議会とよばれる[1])は、欧州16カ国の造船工業会をメンバーとし、総傘下造船所は373 をかぞえる独立組織であり、創設は1937年に遡る。直接的に関係ないとしても欧州全域の造船産業を取り纏めるものあるからEU, Europe Union,欧州連合(又はヨーロッパ連合)と強く連携している。今回の懇談会の主題は「欧州の造船」であるので、この点からもEU抜きで語ることは出来ない。そこで、以下本稿では先ず前半でEUの統合に向けての経緯、組織等についてのべる。

 さて、ソ連那崩壊を経て東ヨーロッパからの参入などで大きく発展して来たEUだが、2008年の経済危機以来、ギリシャ、アイルランドなど通貨危機と共に経済停滞と失業問題などの難問を抱えている。最近ではポルトガルが金融破綻した。この様ななか、欧州統合の理念そのものに反対する反EU運動、移民受け入れ反対などの極右政党の勢力が強まっている等、EUそのものも一つの転機を迎えている。

 一方、欧州造船の分野においては、かって産業革命以来2世紀半にわたり世界の造船セヤーの半分を超えるような圧倒的な勢力を誇った英国造船だが、その首位の座を日本に明け渡したのは第二次世界大戦後わずか12年の1956年であつた。そして半世紀後の21世紀初頭の現在、英国の新造船量の世界セヤーは統計では、例えば2004年以降現在まで連続0.0% と記されるほどの凋落ぶりである。欧州全体で見ても2004年には6.8%、2009年には3.6%までに低落という凋落ぶりである(造工統計、[2])。然し、この様に建造量では、低位に凋落しているが、一方で売上金額で見ると、長らく日本を上回る実績を続けている事実があるのは注目しなければならない。大型客船市場を独占するなど高付加価値船に特化しているのがその理由であろうとおもわれる。

 以下本文ではこれらの状況と共に、EU,CESAが連合して従来路線の確保と21世紀造船市場で来る2015年には名実共に世界のトップに躍り出ることをめざした「LeaderShip 2015」プロゼクトを中心にとりあげる。然し、2008年発生した世界経済変動(リーマンショツク)と、加えて韓国、更にそれを凌駕する中国の急速の設備拡大により事態は大きく変化しつつある。バルクキャリヤーなどの船種の欧州造船所の受注は困難になりつつある。その一つのあらわれとして最近の、欧州の代表的なデンマーク・オデンセLindo造船所の造船からの撤退がある。又一方、欧州のドル箱である4大客船造船所の2つまでが韓国STX社の傘下にはいることになり新しい事態が進展しつつある。先ずはEUの関連項目から説明する。


2.EU、ユーロ、CESAの加盟国・・・

2.1 現在のEU、ユーロ、CESAへの参加国は下の通り
  名称/参加国数 = 欧州 50、 EU 27、 ユーロ 17、 CESA 16 ヶ国 
 欧州は一般にウラル山脈、黒海の出口(ボスポラス海峡・ダーダネルス海峡)以西とされるが必ずしも厳密ではなく、現にアジア大陸西端のトルコは現在EU加盟の候補国となっているし、黒海以東の数カ国が含まれることもある。欧州全体図、EU加盟国、ユーロ参加国、CESA参加国を地図と次のスライドに示した。
   (スライド3) 欧州の範囲、国名など、 (スライド4) EU加盟国、ユーロ導入国
 加盟していないのは英国、スウェーデンなど。ノルウイ、スイス、バルカン半島の一部の国は元々EUに加盟していない。

2.2  CESA 加盟国と傘下造船所 (スライド16)
  ここでは、ノルウエイ、クロアチアなどが参加しているが、スウェーデンは不参加となっている。地中海周辺は比較的参加造船所は少ない。


3.欧州統合にむけての動き

 欧州は20世紀初頭から二回の世界大戦を経験して大きく荒廃した。また戦後の復興過程では、圧倒的に経済力を持つアメリカとの格差かひろがり、資源・資材などを含めてアメリカ の支配力は強まっていった。その中から欧州統合によってアメリカに対抗できる経済圏を確保しようとするの動きが高まっていった。その過程で主要な統合の提唱者として挙げられるのは次の3者とされる[3]。

 統合提唱者  1) R.N.英次郎・グーデンホーフ・カレルギー1924年、  2) チャーチル1946年、
          3) シューマン1950年


1) R.N.英次郎・・・駐日オーストリア公使の父と日本人の母(青山みつ)の子として東京で生まれウィーン大学卒業後雑誌「パン・ヨーロッパ」を刊行してヨーロッパ統合運動を提唱した。第二次大戦中は米国に亡命、戦後帰国して統合運動を推進、EC発展の基礎を築いた。日系の彼が歴史的に現在のEC統合の創始提唱者だと言うことは快事である。

2) チャーチル及びシューマン・・・1946年にウィンストン・チャーチルがヨーロッパ合衆国構想を唱えたことは反響を呼び、1949年には初の汎ヨーロッパ機関である欧州評議会が設立された。その翌年の1950年5月9日、フランス外相ロベール・シューマンはヨーロッパの石炭と鉄鋼という、戦争で用いられる兵器の製造に欠かせない2つの素材に関する産業を統合することを目的とした共同体の設立を趣旨とする、いわゆるシューマン宣言を発した。これにより1952年「欧州石炭鉄鋼共同体」European Coal Steel Communty ECSCが生まれることとなる。このECSCこそが、EU統合への最初のスタートとされている。


4.EU 設立経過より統合へ

4.1 EU 統合への経過年 (スライド5)(スライド6) ――1952年の上記ECSCの設立後、域内の市場統合まで40年、その後ユーロ流通開始まで10年、そして2009年に漸く綜合的な合意を得たリスボン条約の発効にこぎつけている。その前に2004年10月には従来の諸条約を廃して一本化したかたちの基本条約として「欧州「憲法条約」が策定され調印された。然しこの超国家主義的性格から2005年には5月にフランスで、6月にはオランダで、この批准が国民投票の結果否決される事態が発生した。その後超国家的性格を排除した「改革条約」が作成された「リスボン条約」として調印、発効に漕ぎ付けた経緯がある。それまでは、(スライド6) に見るように、3つの柱構造をとつていたが、リスボン条約によってひとつのEUに統合された。
ただ、その経過に見るように、EU統合の理想に対して各国家の主権と各国の経済格差などの現実の矛盾、妥協が背景にあることを忘れることは出来ない。

4.2EU 統合のメインイベント表  (スライド7) 

5.EU の規模、所在

人口(億人) 職員(万人) 予算(兆円) コミッション   ブリュッセル
EU27カ国 2.5 20 理事会   ブリュッセル
日本 1.2 400 83 欧州議会   ストラスブール
委員会   ブリュッセル
事務総局   ルクセンブルグ
  欧州大学院大学 ブルージュ、ナタリン 欧州司法裁判所   ルクセンブルグ
会計検査院
欧州投資銀行   ルクセンブルグ
欧州中央銀行   フランクフルト


6.EUの組織・機能と運営

6.1 (スライド8)、(スライド9)―― EUに統合された後も、(スライド8) に見るようにECという用語も狭義には便宜上使用される、ので稍混乱する。EUの組織は (スライド9)に見るように、
  @欧州委員会(コミッション)、 A欧州議会、 B首脳会議(欧州理事会) の3本柱からなる。

 Bは各国首脳のによる国家利益の追求を主体とするのに対して、@・Aは欧州全体からの視点に基づくのを使命とする。従って、任命制による72名の@委員は、就任後は独立の立場で行動し加盟国の指示は受けない。A欧州議会は成年による普通選挙により5年ごとに選出される。総数736名。(資料により議員数が多少異なるので不詳)。大体人口に比例配分されている。各国議員数=独99、仏72、英72、スペイン、ポルトガル各50、ルーマニア33、オランダ25、・・・マルタ5。など
 A、Bは各国政府から独立した立場なので、給与・年金などはEUそのものより受け取ることになる。

6.2通訳・翻訳者集団――公用語は各国の公用語を公用語とする。この原則は1952年のECSC以来の原則を受け継いでいる。従って、ここでは、膨大な通訳・翻訳業務が存在する。2000年予算によると、EU諸機関に働く通訳は950人。また翻訳者は3,000人といわれ、之は国連を上回る通訳・翻訳者集団といわれる。

6.3欧州人の育成――スペインの政治家サルバドル・マダリアガ氏の提唱により創設された欧州大学院大学(College of Europe)は、ベルギーのブルージュにあり、経済,法学・政治の3学科、1994年にポーランド・ワルシャワ近郊ナタリンに第2キャンパスがある。全寮制で英才教育により欧州人の育成を目的としている。EU機関の人材が巣立ってゆく。若い世代に欧州人意識が高まってきたという。EU諸機関の将来を担う人材の育成が地道に続けられているのを実感せられる。


7.EU統合の功罪と最近の問題 (スライド11)

 EU統合の精神には、二度の世界大戦に象徴される戦禍にたいする不戦の願いがある。と同時に巨大国家となったアメリカに対する統合欧州としての経済圏の確立の狙いもあった。

  EU15   ユーロ圏   米国   日本
人口 (億人) 3.8 3.0 2.8 1.3
比率 109.0 135.6 100.0 45.6
GDP (10億ユーロ) 6,553 8,526 10,709 5,145
比率 61.2 79.6 100.0 48.0

 現在EU統合の成果として挙げられるのは「統一通過ユーロの導入」とされている。通貨の切り替えを終えて、上記の経済視点における統合の第一関門を通過し、米国に対抗する経済圏の確立も一応の成果を挙げたようにみえる。然し、ギリシャの金融経済危機にはじまり、アイルランド、ポルトガルなどの国家経済破綻はユーロ危機を招くなど、困難な展開をつづけている。一方、この様な経済の波乱、低迷に由来しての失業率の増加、反EU運動の台頭、極右政党の増勢、更に、トルコのEU加盟問題と共にイスラム問題など政治的な矛盾などが現実化しつつある。

 (スライド10)は2000年以降の為替の変動を示す。2008年のリーマンショツクに続く経済危機以降ユーロ安は上記のEUの孕む諸問題を象徴したものと言えよう。.


8. CESAの設立経過

 (スライド12) 加盟国、造船所など。ここに記載されている売上額3.3兆円という数値の内訳は不詳だが、(スライド21)に示されるCESAの新造船売り上げ1.77兆という記載からすると、その他の海洋或いは、舶用機器関連も包含したものと推察される。これに対して、日本造船工業会会員造船所の売り上げは2.66兆円、日本舶用工業会の売り上げは1.30兆円、 計3.96兆円となる。

 (スライド13)は、戦後1945年以降の新造船建造量推移カーブで、ら本と欧州の対比。この中で、CESAが改組を続けて現在の姿になった経過も併記した。(スライド16)は欧州造船所地図。(スライド17)は、CESAの組織変遷経緯と概要をしめす。


9. CESAの活動の概要 (スライド14)以降

9.1 欧州諸国の商船新造セヤーの低落 (スライド14) ― 2004年以降のデーターを示す。
  日韓中3国合計の新造船世界セヤーで、2004年以降 2010年までの推移で見ると

 2004  2005  2006  2007  2008  2009  2010
日韓中 合計 (%) 84.5 86.5 89.2 84.9 87.2 90.5 90.7
欧州 16ヶ国 (%) 10.2 8.1 8.7 9.1 7.2 4.5 4.4

 このように世界の新造船市場は東アジア3カ国の寡占状態になった。2009年には遂に世界の90%をこえた。欧州は5%を割り込み2010年には4.4 %までに低落した。

9.2 世界市場の分析  以下に、各スライドの表題をしめす。
 (スライド10).為替変動―ユーロ安、ウォン安。 
 (スライド15).世界 新造船建造量セヤー推移―1956年日本世界首位、2000年韓国、2010年中国に。
 (スライド18).CESA の2007〜2010年新規成約推移―リーマンショック後の落ち込み顕著。
 (スライド19).CESA 受注船種内訳―欧州では客船、Non-Cargoの割合か大きい。
 (スライド20).日本 の建造船種の推移―欧州に比し所謂、箱船が多く、違いが顕著。
 (スライド21). CESA の新造船売り上げ高推移――――――2009年では1.77兆円。
 (スライド22).日本 造船工業会会員造船所の売り上げ推移―2009年では2.66兆円。
 (スライド23).日本 舶用工業会 総売り上げ推移―2007年では1.3兆円。
 (スライド24). CESA の受注船種推移CGT、%表示―2003〜2009年、Ferry,Passenger が約45%
 (スライド25).世界 日韓中欧 新造船受注量推移、GTベース―2003〜2009年、2007年の韓中国の
         大量受注が突出。
 (スライド26).韓国STX社の欧州進出、Aker社を完全買収 ― 客船建造の長い実績を持つAker傘下の
         アトランティック、ヘルシンキの2大造船所も傘下におさめた。
 (スライド27).韓中造船所の建造量の躍進 ― 韓国が日本を。中国が韓国を。キャツチアップ。 

9.3 世界の海事社会における勢力争い
 1)発言力の背景となる要素 ― 建造量、支配船腹量
  造船国―日本・韓国・中国の東アジア造船国は建造量セヤーで世界90%。欧州は5%以下。
  実質支配船主国 ― 船腹量第1位日本は世界の14.4%、第2位ギリシャ12.7%。
  籍船国ベース船腹量 ― パナマ、リベリヤが、突出。それでもギリシャは7位。然し、国籍船船腹
                  では15位、隻数6.0%、トン数1.7%。の低位に留まり、独伊よりも少ない。
 2)船舶法規、規則、設計コンセプトのリード構図 ― 造船国、主として新造船による先進の運行に
   たずさわる支配船主国よりも、ギリシャに代表される一群の運行船主国の勢力がリードしているように
   みられる。少なくとも東アジア造船国はリーダーの位置に居ないのではないか。(スライド28)はその
   構図を考えるもの。

9.4 欧州造船のキーワード
 1) 客船建造 著名な4造船所。そのうち2造船所はSTX欧州の傘下――アトランティック造船所(仏・
   サンナザーレ)、ヘルシンキ(フィンランド)。その他はマイベルフト(独)とフィンカンチェリ(伊)
 2) 売り上げ重視―高付加価値船の建造に注力している。CESAの資料では、総売上高は日本を凌駕
   するような図を示しているが、今回は必ずしも中身の内訳はチェック出来ていないが、いずれにしても
   大きな間違いはなさそうである。
   建造量で世界の5%に過ぎないのに、世界の30%前後の日本と総売り上げが略対等という成果は
   大いに参考にすべきものである。
                                                       (おわり)

                         主要参考文献

[1] 「欧州企業経営戦略調査―欧州造船企業経営と安全・環境基準との関連について」
   2007.3  日本船舶輸出組合  日本財団補助事業 
[2] 「造船統計資料」 国交省海事局 2010.6
[3]  CESA homepage  http://www.cesa.eu/
[4] 「欧州連合(EU)の発展過程と現況」 高橋秀行 2011.2.19放送大学講演会(神戸大学)
[5] 「欧州連合」 庄司克宏 岩波新書 2007.10、「大欧州の時代」脇坂紀行 岩波新書2006.3
   その他 「EU世界を読む」小倉襄二編著 世界思想社 2002年、
   「新たな段階に入った欧州統合―ユーロ現金流通開始と欧州連合の東方拡大―」
   ニッセイ基礎研究Report 2002.3 など。
[6] 「Shipbuilding Regions Send A Strong Political Signal」
   CESA Press Release 2010.04.08 CESA Homepage News
[7] 「ヨーロッパ造船所週間」 マリタイムジャパン 2006.3.23
   その他 homepage 各種、関連資料。
                                                       以上