日本船舶海洋工学会 関西支部 海友フォーラム K シ ニ ア
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海友フォーラム 第24回懇談会 報告

文責 大山正俊

1. 日時 : 2014年4月25(金) 14:00~18:30
   会場 : 川重 海友館新館

2. 参加者 : 28名  (敬称略) 
        池淵哲郎(非会員)、 井沢雄幸、 石津康二、 太田紀一、 大山正俊、 岡 正志、 岡本 洋、
        小野靖彦、 河合敏雄、 工藤栄介、 小寺元雄、 島本幸次郎、 菅野正彦、 杉本健(非会員)
        杉山和雄、 冨田真一、 外山 嵩、 内藤 林、 長野 健、 並川俊一郎、 野沢和雄、
        塙 友雄、 濱田 淑、 藤村 洋、 増本 彰、 増本 敞、 矢木常之、 山中幸一
        

3. 事務連絡事項

    会員異動 : 入会者 : 増本彰さん (川重OB)

4. 経緯説明:
    内藤氏が 海洋政策研究財団の発行している Ocean Newsletter において、「近年の多様な技術
   革新は造船工学に新しい技術展開を迫っている。 これまでの経験を総括し、新しい形の「産学・官」
   の新しい共同研究システムを構築する事が必要である」等々の提言をされた。
    海友フォーラム幹事会で、この提言について種々の角度から議論する事は懇談会のテーマとして
   ふさわしいとの同意が得られ、講演を内藤氏、岡本氏、島本氏、大山氏に依頼したものである。

5. 講演要旨:

  1) 内藤 林 氏  「船舶海洋工学の新しい発展を」
      昭和27年にスタートしたSRは、「学」と「産」の共同研究の場、若手成長の場、「学」の先生方の
     良好な競争の場、技術者の議論の場として、戦後の造船界の技術研究開発をリードして来た。
     しかしおよそ50年の歴史も平成15年のSR246を以って終焉した。 廃止された理由としては、護送
     船団方式の研究体制はダメであるとか、支援資金が無くなった等色々とある。
      SRの廃止によって、その後の「産学」の研究は個別研究に移行し、大学の先生間の横のつなが
     り(連帯と競合)も失われ、若手の成長の場も失った。 研究開発成果の発表も少なくなった。
     「産学」の共同研究体制が上手く機能しないのは、以下のような問題が有るからである。

    ・ 研究成果蓄積システム(強いて言えば、「技術計算プログラム」と「報告文書」であるが)が確立
      しておらず、過去の研究成果が散逸し、技術者も拡散している。
    ・ 知的財産権問題が未解決である。 学と産の権利、利益配分が出来ていない。

      SRが終了した3年後(2008年)に、SR244の成果を総合化して、RIOS(実海域船舶性能研究
     イニシアティブ、大阪大学大学院工学研究科地球総合工学専攻船舶海洋工学コースに設置され
     た実海域での船舶性能の向上と船舶性能の評価手法に関する研究開発拠点)を発足させた。
      RIOSの目的は、実海域での実際の船舶性能を高精度に推定し、学術的に高いレベルで且つ
     実用的な数値計算法を具体的な計算プログラムとして実現させ、それを主体とした実海域での
     船舶性能推定・評価システムの利用の促進を図ることにより、設計や性能予測・評価手法におけ
     る技術的な差別化を行い、日本造船業の技術・品質に対する信頼「日本プレミアム」を堅持・発展
     させていくことにある。 船舶の評価をLife Cycle Valueとして捉え、実海域での航行性能で海外勢
     に勝たねばならない。 これがSR244の目的でもあった。
      RIOSには造船所15社が参画しており、「学」は学術的に高いレベルの数値計算法を実用化さ
     せ、造船会社へその成果を提供・還元する。 一方「産」は、「日本プレミアム」を堅持するという
     強い積極的な意識を持って解決すべき課題の提起を行い、「学」での研究に対する財政支援を
     行う、という産学連携体制ができている。

      わが国には、日本航海学会、日本マリンエンジニアリング学会、日本船舶海洋工学会という
     船舶の建造、運航に関わる学会が有る。「産」はこの学会の持つ能力を生かした三学会との共同
     研究をもっとプロモートすべきではないか。

      技術のさらなる展開のためには、コア技術の堅持と深化が必要であり、「学」との長期的視点に
     立った「産」との関係が必要であり、周辺技術を取り込みは「産」に要請したい。
      船舶海洋工学の新しい発展の為に今必要な事は、

    ・ 「産・官・学」の研究開発体制の再構築 ・・ 「産学」は研究技術専門集団、「官」は政策立案専門
     集団であり、「官」は「産学」の技術開発を政策的に支援すべきである。
    ・ 研究開発費の増額
    ・ 研究技術者の交流
    である。

  2) 岡本 洋 氏  「技術開発と共同研究 ・・ SR体制のレヴュウと新時代のあり方
     SR研究の発足時からの時代背景、造船業の盛衰推移、運営体制を俯瞰し、SR共同研究の成果
    とSR方式の老化を考察した結果、以下のような成果が有った。

   ・ 日本造船界の拡大・発展期に適応し、基礎的で共通の課題研究に貢献した。
   ・ 産官学の総力を結集して、日本株式会社的な効率的な研究成果を上げた。
   ・ 産官学の人的交流による情報交換が出来た。
   ・ 日本標準的な造船技術が確立した。

    一方、50年の歴史を経て、SRの老化による下記のような弊害もあった。 即ち、
  
   ・ 研究内容が平均的なテーマになりがちで、先端的でなくなった。
   ・ 会社間の格差が顕在化し、研究テーマやその内容に不満が生じ始めた。
   ・ 参加するための共同研究になってしまった。
   ・ 資金の提供元である日本財団が「本当に役に立っている研究なのか」と疑問視した。
   ・ 世の中が委託研究方式への傾斜を強めて行った。

    SR(日本造船研究協会)に代わる組織として新たに設立された「日本船舶技術研究協会(JSTR)の
   発足経緯、活動内容、活動予算等について調査し、SRとの相違を明らかにした。 即ち、JSTRの主
   たる活動は、技術基準・標準規格に関する試験研究や調査であり、SRの船舶工業技術の試験研究
   とは異なるものであり、もはや「産官学」の共同研究の場ではない。

    内藤 林 氏の提言に関連して 「日本の大学(船舶海洋学科)、造船所は大丈夫か」 という視点で
   以下のような問題が提起された。

  ・ 大学の中に企業の寄付講座が開設されているが、中には企業社員が特任教授や招聘教授、招聘
    研究員となり、大学の正教授(兼任)と同じ講座で共同研究をしているが、産学交流と研究者相互の
    守秘義務に問題は無いのか。
  ・ 大学は重箱の隅をつつくような研究が多いのではないか ・・ 企業トップの意見として
  ・ 産学の交流が不足している。 研究ニーズは現場にある。 ここを探って先端的なものに挑戦すべき
    ではないか。
  ・ 研究開発をしっかりマネージメントする体制、技術経営の考え方が十分でないのではないか。

  3) 島本幸次郎 氏  「船舶海洋工学の新しい発展 ・・ 大学の教育と企業のニーズ、新規開発について
    (島本氏は大手企業で舶用機関関係業務に従事された後、福井工業大学に転身され、ここで教鞭
     を取られた経験もあり、大学と企業の両方の内情について詳しい。)
  
      大学での教育は、第一義に学生が学問を習得する事にあるが、先生は教育と研究の両輪で
     評価される。 研究テーマは基礎工学的なものが評価され、機器の設計等実践的なテーマは
     研究・学問とみなされず評価は低い。 大学と企業の共同研究は企業の目前の問題解決案件が
     多く、ノウハウや特許などの守秘義務もあり上手く行かないし、解決しても学問的な評価が高い訳
     ではない。
      企業は即戦力になれる人材を要求してくる。 大学では高邁な論理よりももっと実務を教えて欲
     しいとか、学生に応用力がないなどのクレームが有る。 企業のニーズと大学教育のギャップは
     大きい。 このギャップを埋めるものとして「日本マリンエンジニアリング学会」の行っている若手
     エンジニアの為の社会人教育は社会のニーズに応える教育の好例である。

      新規開発について、中国の躍進と日本の衰退、最近の企業体質と新規開発の動向、会社時代
     の研究開発の経験と反省等について俯瞰し、以下のような研究開発のフィロソフィーが提示され
     た。
   ・ 開発のトライアングル----顧客・競合他社・自社の相互関係を見極める
   ・ 人・設備・金のかけ方----サイクリックな展開、強権なリーダーが必須
   ・ 新製品開発の空中ブランコ----商品ニーズと関連技術の時系列的なマッチングが不可欠
   ・ 開発の三位一体----リーダー・技術気違い・営業気違いのベクトル合わせ
   ・ シーズオリエントとニーズオリエントの違い----ニーズオリエントが大事
   ・ 開発チームの編成----専従か兼務か、複数のグループ分け・開発の凍結・撤退の決断
   ・ 会社の遺伝子----所在地、設備、風土、適応力、スタッフのパワー、独裁容認か

      造船業界の勢力分野が変化し、新たな環境技術が船舶の競争力を左右する時代にあって、
     「変化は起きる・変化を予期せよ・変化にすばやく適応せよ-----変わろう・変化を楽しもう」
     という気概が造船業界には求められている。 造船のDNAを大事にして産官学や他社との共同で
     或いは、自社独自で世界一、世界初を目指そう。

  4) 大山正俊 氏  「船舶海洋工学の新しい発展を・・ 提言に関する現場企業の受け止め方
      内藤先生の提言を造船企業の現役に読んでもらって意見を聴取した結果の報告である。
     但し、あくまで回答者の個人的な意見である。
      SRの中止理由については日本財団の助成金が無くなった事が一番と理解している。 SRが無く
     ても自社の研究開発に特段の支障はないと考えている。 但し、若手人材育成の場が減ったと
     認識。
      韓国がSRの様な体制で基礎研究をしている事は認識しているが、これ自体に脅威は覚えていな
     い。 韓国の大手3社が実用的な共同研究を行う素地は無い。 中国に関しても脅威とは思ってい
     ないが、ビジネスのやり方や開発への取り組み方は日本と違う。
      日本の研究開発が停滞している訳ではなく、製品に直結する研究開発は論文に出すという訳に
     行かないので内向きと言われるのかも。 研究開発対象は従来主流であった構造強度・流体分野
     から機電工学にシフトしている。
      新しい形の共同研究システムで、「産学・官」との提言だが、一番重要な事は 「形ではなく、
     日本の為に産官学挙げて取り組むテーマを決める事」ではないかと考えている。 先ずは具体的
     な研究開発テーマがあって、その為に必要な資源(人、モノ、金)を集めると言うやり方が現実的で
     ある。 国際条約関連では、「産」と「官」が連携し、理論武装を「学」がやるという形もある。
     大学の研究が今の時流や企業の求めるものに合致していない。

      以上のような現場の意見を受けて、 「産官学の交流、意見交換が出来ていない事が問題であ
     り、各々が個々の課題分析や立案に止まっているように思われる。 今必要なのは三者で議論し
     、具体的なPDCA(Plan,Do,Check,Action)行動を取ることである」 との所感が述べられた。

6. 終わりに
     内藤 林 氏の提言に対して様々な立場からの意見が出されたが、 「学」 と 「産」 の間での交流が
    出来ておらず、個々の立場で問題提起まではなされるものの、そこから一歩踏み込んだ議論、相互
    理解、建設的な試みまで至っておらず、「産・学」の関係は良好ではないという印象を受けた。
     「産」 「学」 共に交流が必要であると認識しているものの、それを行動に移そうとしていない事が問
    題であろう。
     藤村 洋 氏からは、顧客(船社)の視点で共同研究のあり方を考えることも必要ではないかとの指
    摘もあった。 今回は大学と造船所という視点が多かったが、船社には違った見方があろう。
     日本船舶海洋工学会の中に出来た研究ストラテジー研究委員会で、大学・造船所・船社・官の4者
    で日本の造船業の競争力強化のための技術戦略が議論された事もあるが、提言止まりで、具体的
    行動には至っていないようである。
 
     講演時間が長引き、会場からの意見を十分引き出す事が出来なかったが、参加して頂いた方々
    同士での議論は活発であり、皆さんのご協力で無事懇談会を終了した。

                                                        以上