船のカタチ(56)  深海潜水装置DDS
              シートピア実験支援ブイ、 海中作業実験船 かいよう、 潜水艦救難母艦 ちよだ
                                                                   2014-08 神田 修治


前回は潜水艦の耐圧殻を見たがそれは外部が深海の高圧、内部が大気圧というものでした。 今回は内部が高圧でその中に人が滞在するという耐圧殻で、それは深海潜水装置(Deep Diving System-DDS)というものです。 ダイバーによる潜水作業では潜水病(減圧症)が問題で、これを防ぐためには潜水深度と滞底時間に応じて時間をかけてゆっくり浮上(減圧)するが、この時間中は作業できず、効率は悪くなる。 これへの対策として飽和潜水技術が開発されました。

ダイバーは船上の高圧チャンバーDDC内に何週間もの長時間居住滞在して、この間に何度もPTCに乗って海底・海中の作業現場に往復して大規模な潜水作業を行い、一連の作業が終了した後、何日間もかけゆっくり減圧し大気圧に戻り、DDCから出るのです。 この間ダイバーの体内には深度に応じた圧力のガスが飽和状態に溶解しているので飽和潜水というのです。 ガスとして空気は不適でHe-O2混合ガスを用います。
上図で左側にDDSを図示し、その右にその縮小図(艦船と同縮尺)、そのまた右に艦船と搭載状態のDDSを示す。

私事ですが、私はDDSの開発に深く関係しました。 1976年JAMSTECに出向して「支援ブイ」による飽和潜水実験等の工学技術部門を担当したあとKHIに復帰して 「かいよう」 と 「ちよだ」 のDDSの設計を担当しました。 注文主、関係官庁、船級協会、潜水医学の医師、研究者等多方面の方々と協力して仕事をやり、大変良い経験をいたしました。 [1],[2]

「支援ブイ」は船ではなかったが、船舶安全法の適用を受けることになり、私はJG入級工事を担当しました。
「かいよう」はJAMSTECの飽和潜水技術の実験船として建造され、要目はダイバー6名、飽和潜水深度300m。
この船体はセミサブ双胴船(SWATH-Small Water Plane Area Twin Hull )で、水線面積が小なので載貨重量dwtは大きくないが波中での動揺が少なく、甲板面積が大きくとれるので、海洋実験船、作業船として好適といえます。

「ちよだ」は海自の潜水艦救難、潜水作業等の運用のために建造され、DDSはダイバー6名、飽和潜水深度300m。
なお潜水艦救難艦は普通ASRと呼称されるが、本艦は母艦機能も有するので潜水艦救難母艦ASと称します。

船が完成した後DDSは外から見えないので、上図では部分的にカットしたり関連別図を描いたりして「見える化」の工夫をしましたが、それもあり、今回は図も文も理屈っぽいものになってしまいました。

  [1] 神田修治、深海潜水装置について、舶機学会誌 1982-6
  [2] 大岩弘典他、深海潜水装置の環境制御システムについて、関西造協誌N193、1984 



船のカタチ(56a)  DDS深海潜水装置 補足
               海中作業実験船 かいよう DDS、 潜水艦救難母艦 ちよだ DDS、
               「見える化」の工夫
                                                                   2014-08 神田 修治

前述のように、DDSは艦船の内部に搭載されるので艦船が完成した後は外から見えません。
これはアタリマエのことではあるが、私のように、むかしDDSの開発に関係し、いまこのように「船のカタチ」シリーズをやっている者としては残念な気もします。 そこでDDSの全貌を「見える化」する工夫について述べてみます。

工夫の一つはイラストレーション(図解 イラスト)です。 図1と図2は雑誌ニュートンに掲載された「かいよう」とそのDDSのイラストです [1]。 イラストレータの腕前によりDDSの全貌がキレイでわかりやすく図解されています。
  
   図1 海中作業実験船かいよう(雑誌ニュートン)      図2 かいようのDDS(雑誌ニュートン)

今一つの工夫として、図3は「ちよだ」DDSの工場内総合試験の写真です。 このときDDSの各サブシステムが集合・配置・配管・配線されるので、私はその全貌を記録しておきたいと思い、写真班と協力して工場の天井クレーンからこの写真を撮りました。そして関西造船協会へ提出した論文 [2] に入れたり、会社のPRチラシに用いたりしました。
  
      図3 ちよだDDS陸上総合試験           図4 AS ちよだ(防衛庁インターネット)

図4は「ちよだ」の外観、PTCは中央左舷甲板上に配置・固定されるので外から見えます。 PTCのむこうはDSRV。

艦船に積む各種の機械、装置、システムは、その艦船の機能・性能を発揮するのに大切です。
このようなもののうち貨物船のデリック・クレーンや軍艦の砲、アンテナマストなどは外から見え、船のカタチをなす要素となるが、その他の多くの機械、装置などはいったん艦船内に据付けられれば、あとは外から見えなくなるものが多い。 私の「船のカタチ」シリーズではこれらにも視線を当て「見える化」の工夫をしたいと思っています。

  [1]  科学雑誌 ニュートン、Newton 1986-3
  [2]  大岩弘典他、深海潜水装置の環境制御システムについて、関西造協誌N193、1984


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