1. 費用
写真(filmとDPE)とお土産を除いて総額100万円を目途としたが、92万円で収まった。
理由は、飲食費が10万円を超えなかったことが大きい。 出発前には、二人で1日8000円で収まるだろうかと懸念したが、4300円で昼、晩の食事と飲み物などがとれたし、要所要所のテラスで素敵な景色を眺めながらの休憩もできた。
交通費が59.6%(航空券と国内交通費:38.3%、スイスの国内交通費:21.3%)、宿泊費が26.4%、飲食費が10.7%、雑費が3.3%。今度は移動が多かったのでスイス国内の交通費がかかったのと、登山電車などの地域交通費が高いことのため、交通費が全体で6割も占めた。 航空券を安くすることと長期滞在して国内交通費を節約すれば、更に安くなる可能性はある。
2. Swiss Card
Swiss Passは、鉄道は無料になるが、登山鉄道やRopewayなどの地域交通費の割引率は25%である。 一方Swiss Cardは、鉄道利用の最初の日と最後の日は無料、その間は鉄道も地域交通も半額である。 ただ、22日有効のSwiss
Pass(1等)は約5.9万円、Swiss Card(1ヶ月有効、1等)約1.9万円で4万円の差があることのため、今回程度の移動量では、どちらを使っても鉄道交通費には大差なく、登山電車などの地域交通費の割引率の50%と25%の差が効いて、Swiss
Cardを利用したことは成功であった。
例えば、スイス国内の地域交通費は二人で7.7万円、これがSwiss Passでは11.55万円かかることになる。 ただし、Swiss Cardでは、毎回切符を買わねばならぬ。 (窓口はすいていたので、たいした手間ではないし、概して親切である。)
どのガイドブックにも、スイス国内でも買えるが、販売している窓口が限られているので、安全のため国内で購入してゆくことを勧めている。 ガイドブックによっては、理由なしに、ただ国内で購入するように書いてある。 国内で買うのとスイスで現地通貨で買うのとでは、価格差があるのでスイス国内で買いたいが、この点をZurich空港駅で確認しておくのを忘れてしまった。 (窓口の女性が新米で、もたもたしているうちに電車の出る時間がギリギリになってしまい、慌てて忘れてしまったものである。)
3. 旅行の季節と期間
6〜8月がベストシーズンであることは、誰しも予測の付くところではある。 緑の草原に残雪が残り、高山植物が咲き乱れる美しさは想像に難くない。 しかし、この時期は訪れる人も多く、ホテルも予約が取れにくく、値段も高いと聞く。 登山電車は満員で長々と待たなければ乗れないとも聞く。
一方、行く以上は長逗留して思う存分歩き回りたいというのが希望である。 どこか人の行かない隠れた秘境のようなところがあればいいなと思うのだが、そんなところは一般のガイドブックには書いていない。 初めて行くのに、そんなに虫の良い願いがかなうわけもない。 先ず最初だから満遍なく、アルプスの3大北壁とベルニナ山群のサンモリッツ周辺に平均4泊し、それらの拠点間を移動する途中で、チューリッヒ、ルツェルン、モントルー、ベルンなど聞き覚えのある町と浜本君(高校時代の友人)ご推薦のEggishornを1泊入れ22泊で立案することにした。
こうなると予算の範囲内では、ベストシーズンに出かけるのは無理のようである。 航空券からして高いし、日本の山ほどではないだろうが、人波が行列を作るようなハイキングもいやなので、9月にしたのである。
昔、現役時代に付き合いのあったフランス人は、フランスは6月もいいけれど9月もいいよといっていたし、昨年ポーランドに行ったとき、ザコパネの宿の青年は、次に来るときには9月がbestと薦めてくれた。 旧友浜本君は、9月になると人も減るし、ホテルも安くなるし、天候は夏の続きで安定しているし、狙い目であると推奨した。
そこで、JALの「悟空」が1段階値の下がる9月3日を待って日本を出発したのである。 結果的には、浜本君の言ったとおりであった。 交通機関はよくすいている。 各種の観光特急にも現地予約で乗れたし、登山電車も待たずに乗って座れた。 ホテルも中間期の値段になっているのに、交通機関のダイヤは夏の最盛期のままなのである。 天気も9/18までの15日間はは晴れ、9/19-24曇り、9/24が雪/雨、9/25曇りであった。
草原には結構花もまだ咲いていたし、9/20頃には紅葉し始め、最後には雪景色にもお目にかかり、季節の移り変わりを堪能できた。
スイスは国中が庭である。 花を見るには何もユングフラウやマッターホルンのような人の集まるところに行かなくてもよいのだ。 もう一通り行ったから、今度行く時には、花のシーズンに人里離れたところに行ってみたい。
4. ホテル
ガイドブックにも書いてあるとおり、星の数は、規模と設備の基準であり、質の基準ではない。 今回は、1つ星、2つ星、3つ星に泊まったが、寝泊りするのに星の数は関係なかった。 印象の悪かったのは、ポントレジーナのMullerとチューリッヒのBristolであったが、いずれも3つ星であった。 前者は、見かけも良く、愛想もいいのだが、こすっからい
。 ここには泊まらないほうがよい。 後者は、今回の旅行で一番値の高いホテルだったが、lobbyらしきものもなくただ泊まるだけのホテル。 朝食もみすぼらしい。 都会の駅の近くというだけが取り柄。
よかったホテルは、シャモニーのL’ArveとツエルマットのCouronne。 前者は、立地条件も良く、Lobbyもbarもあって3つ星並みなのに、今度の旅行で1番安い。 後者は、Garni(レストランのないホテル)ではあったが、マッターホルンがまともに見える良い立地条件と清潔感あふれるホテルなのに160Fは安い。
1つ星のホテルは、フロントもないホテルというよりは「はたご」と呼んだほうが良いようなものであるが、部屋は狭くもなく、泊まるのには何の支障もない。 却って気さくな感じが好ましい。 Pension
Panoramaからは、窓越しにPilatus山が正面に見えPanoramaの意味が納得できる。
広い部屋の中にシャワーがむき出しで付いているが、障子のつい立つきガラス仕切りで囲まれていて、水がはね出る心配はなく、カーテンで仕切られたBathのシャワーよりよほど使いやすい。 Hotel Du Pontの一階は、居酒屋風のレストランで地元の庶民層の男女が飲んだり食ったりしている。 そのカウンターで鍵をもらい、暗い階段を上がってゆく。 でも部屋は、こぎれいなものである。
そのほかのホテルも、決して悪くはなかった。 まだ30代と思われる若夫婦の経営するTschuggenからの牧草地越しに見るアイガーとbath付の広い部屋。 これで131F。日本のビジネスホテルとは、広さにおいて、質において比較にならない。 帝国ホテルのようなところを基準にすると、お粗末かもしれないが、じゅうたんを敷き詰めた豪華なロビーやプールやサウナにみやげ物店があっても、関係ないのである。 そんなもののために高価なホテルに泊まる必要は、少なくともスイスではさらさらない。 服装に気を使うだけ面倒である。
どこのホテルも清潔で安全だ。 それにどこでも英語が通じる(Mullerに4ヶ国語話せるのに英語だけ話せない女性がいたけれど)。
外国人の老夫婦が2つ星ホテルで、むつまじく、つつましく休暇をすごす姿を見るのは良いものだ。 物見遊山という気分とは少し違うのだ。
5. 食事
若い頃、外国出張で珍しい外国料理を試すのは楽しみの一つであった。 メニューのなかから地のもの、珍奇なるものを探して注文したものだった。 大きな皿にちょこんと乗った日本のままごとのような料理と違って、たっぷりと盛られてくるところが、これまた大満足であった。 外国へ来て、料理を楽しめないとはなんと不幸せなことよと思っていた。
ところが、退職後は至って消化力が減退した。 食に興味はあるし、何を食べてもおいしいのであるが、すぐに胃もたれする。 道子がまたそれに輪をかけたようにその傾向が強い。 そのくせ食べるのは早い。 運ばれてきたものをパクパクと小生が半分もすまないうちに済ませてしまい、しょざいなさげに小生の食べ終わるのを待っている。 このような次第で、ついつい外食から遠ざかるようになる。
それで、スーパーなどで食料を調達し、部屋で夕食を済ませ、残り物でサンドイッチをこしらえて次の日の弁当にすることになる。 Wine、ハム、サラミ、チーズ、ヨーグルト、トマトや果物、smoked
salmon またはroasted chickenなど。 珍しそうなもの、おいしそうなものを探して少量ずつ買う。 それに外国に来るとパンがおいしい。
また最近は、袋に入ったカット野菜が売られていて、新鮮なパリパリの野菜が手軽に食べられる。 ただ、日本のような小振りのdressingやマヨネーズを売っていなかったので、これらをあれこれ試すことができなかったが、一般的に言って、dressingは口に合わないことが多いので、マヨネーズ1本で済ませた。 日本からお気に入りのdressingを1本持って行くのも手だろう。
夫婦とも、日本食を食べなくても気にならないほうなので、毎日この調子でもいやにならない。 それどころか、毎日毎日美味しい美味しいといってたべた。
もちろんレストランに行かなかったわけではない。フォンデュも食べたし、スイス民謡の演奏を聴きながらの夕食もした。
人間は、そのときどきの体調にあわせて判断するものだ。昔ほど食べなくても、何の不満もない。 おかげで費用節約になった。
6. 列車の旅
スイスの列車ダイアは、極めてうまくできている。 本数はそれほど多くないのだが、時間は正確で、乗り換えの連絡がスムースである。 ただ乗り換えは多い。 小さな駅では電光掲示板がないこともあり、何番線に列車が着くのか、入ってきた列車が乗るべきものかどうかなどがあやふやなことがよくある。 概して日本の鉄道に比べてアナウンスは少ない。だまって入ってきて、だまって出てゆく感じである。
駅員に確認すること、車両にかかっている行き先板を確認すること。 そのためには主要駅名は知識として心得ておくことが必要である。 発音のできない地名・駅名は、とっさの時に思い出せないし、駅員と話すときにも役に立たないので、口に出して言えるようにしておくことも旅の心得の一つである。 日本語なら見ただけで覚えている。 英語もだいぶ慣れてきた。 ところが仏、独、となると復唱しないと覚えない。 ドイツ語は長ったらしいのが多いし、フランス語は発音が間違っていることが多い。
20年ほど前、リオデジャネイロの町で迷子になりかけたことがある。 同じところをぐるぐる回りしているのだが、通りの名前が目に入っているのだけれど記憶に残っていないため、気づかないのだった。
今回は、1等のSwiss Cardを使った。 満員ということはないので2等でも差し支えないのだが、観光列車の中には一等だけの編成のものがある。 ガイドブックには、氷河特急と**特急というのが仰々しく書かれているが、これらにも1等であれば、あいていれば追加料金なしで乗れるので、1等にした。 限られた列車以外の一等はガラガラで気楽なことこの上ない。
観光列車には、ルツェルン〜インターラーケン、インターラーケン〜モントルー、ツェルマット〜フィーシュ、フィーシュ〜ライヒェナウ・タミンス間で乗った。念のため座席指定はチューリヒについた日にとっておいたが、最後の列車以外は、すいていてその必要はなかった。 予約が入っている席は、席に予約のシールが張ってあるか、座席番号に添えて名札が差し込んであるかする。 それ以外の席なら自由に座ってよい。
観光用1等車両は窓が天井に達し先が曲がるほど高い。 それほど山が高く、谷が深いのである。 車内は特段の変わりはないが、インターラーケン〜モントルー間の車両は座席が応接室の室内のようにあちこちに向いて配置されていた。
スイスの鉄道では、手荷物配送システムがよくできていて、これを大いに利用した。 一人1個10Fで荷物を別送してくれ、行き先で3日間留め置くことができる。 次の拠点まで大きな荷物は送ってしまい、1泊分の荷物だけをリュックにかついで途中で1泊する。 モントルーやベルンなどでこの手を用いたが、大変便利である。
7. 換金
手持ち現金としてT/Cを持っていった。 日本の銀行のcash cardでも外国のcash dispenserで現金の引き出せるものもあるし、ほとんどのところでカードは使える。 この方が換金手数料が安いように思う。 しかし、長年の習慣からいくばくかの現金の代わりに現地通貨のT/Cを持ってゆく。 日本円を直接換金するよりT/Cのほうが有利。 ベトナムやポーランド、かってのブラジル(いまでもか)では、ドルcashが有利なこともあったが、先進国ではそういうことはない。 とにかく、お金の調達は、複数の手段を用意してこくことが必要であろう。 ちなみにT/Cの銘柄は、AmexやMaster Cardのような名の通ったものの方がよい。 これまで数回、東京三菱の銘柄をもっていって換金を渋られたことがある。
T/Cは元来サイン一つで現金代わりにつかえるもので、スイス国内でスイス・フランのT/Cを銀行でcashにするとき手数料を取られたことはない。 もちろん一般の店でもT/Cが使える限りは(町の店や、一つ星のホテルではT/CどころかCardも使えないところがある)額面どおりで通る。
ところが、フランスのChamonixでは、手数料を取るところが多いので注意を要する。 町の両替屋は、9%も要求する。 Commission
9%だけどいいかと、店のお姉ちゃんがはじめに断るだけましだが、9%とは馬鹿げている。 銀行なら大丈夫だろうと、Banque Laydernierという銀行に入った。 そこでも6%と言う。ホテルでもレストランでも額面どおりで通じるのに、なぜ銀行ではダメなのだと詰め寄ると、向かいの店はもっと高いとか、なんとか関係のないことをわめきたてる。
Hotel Mulleでやりあったときもそうだったが、イタリヤ人やフランス人は、相手の疑問に答えないで、自分の都合だけをまくし立てるのである。 こういう相手とは、議論をしないで取引をやめるか、Managerを呼んで責任を追及するか、言うことを聞かねなければ不利になるような条件を出すことである。 窓口のおばちゃんと議論をしてもしょうがないので、もしものことを考えて、100EURだけcashにしたが、釈然としないので別の銀行に立ち寄ってみた。
Credit Agricoleという名の銀行で聞いてみると、奥から若い男性行員が出てきて4.5%という。 また同じ議論を吹きかけた。 お前は、ホテルやレストランのマネジャーがT/Cを持ってきたときにもcommissionを取るのかと。
やはり同じように関係のない言い訳をまくし立てるが、表情にはいいわけであることが表れている。 要するに旅行者(特に日本人と見てか)吹きかけているに違いない。 次に、Societe
Generaleという銀行に行った。 ここでは、何も言わず額面どおりのcashをくれた。 入ったときの雰囲気から、この銀行は、前の二つの銀行とは格が違うようだった。
現地通貨以外のT/Cを換金するときに手数料を取られるのはわかるが、自国通貨のT/Cを自国cashに換えるのに手数料をとる、あくどい商売には要注意である。 Chamonixは、観光上はとてもいいところであったが、換金だけは要注意である。
8. 後記
スイスはさすがに観光立国だけあって、旅がしやすいところである。 何しろ便所がきれい。 3000mを越す山のてっぺんの便所も、人の集まる観光地の便所も駅の便所もきれい。 便所を個々の問題として任せるのではなく、社会システムのひとつとして捉え、systematicなし尿処理の仕組みができているのではないかと思われる。 スイスを訪れる観光客にはrepeaterが多いのも頷けるものがある。
観光客は少なくなった時期とはいえ、定番コースには日本人のパック旅行者で溢れている。 しかし1歩はずれると、日本人にはほとんど会うことがない。 我々のようなシルバーの夫婦連れの2組、母娘の2人連れ2組にホテルで出会っただけである。 ほとんどはグループ旅行者であった。 さもなくば、現地日本人ガイドを引き連れた金持ちらしきお方である。 二人だけで、見知らぬ外国の世界を、漂うように旅するのは楽しい。 スイスは、物価が高いので有名であるが、やりようによっては安く旅することもできる。自作自演の個人旅行は、お薦めである。
学生時代、西ちゃん(山岳部の1年先輩)が夢見るように熱っぽく、アイガー、マッタホルン、グランドジョラスの北壁を語っていた。 落ちこぼれ岳人の小生は、そんなところを登る気もなかったし、スイスに旅できるなんて思いもよらなかった。 45年前のことである。 大学卒業後は山屋ならぬ造船屋として飯を食い、山のことは忘れた生活を送った。 ところが、退職後、青春時代の思いが伏流水があふれるように吹き出てきて、ヘボ山屋を復活することとなった。 そして遂に、実物のアイガー、マッタホルン、グランドジョラスの北壁を目の当たりにして、学生時代を思い出し感慨無量であった。
そしてAlpinismの何たるやを悟ったような気がした。 アルプスの山々には人を拒絶するような威厳がある。 それに挑戦する精神がAlpinismであり、一つの時代精神の反映として理解できる。 それに比べると日本の山は、やさしい。 今となっては、小生の山好きは、決してAlpinismとはいえない。 あえていうならば、芭蕉の境地が求めるところといえるかもしれない。
参考にしたガイドブック:
1. Switzerland(Lonely planet 叢書:英文) : Budget traveler向きでよくわかる。
2. スイス(地球の歩き方叢書) : 内容的には当てにならないところがあるが、Home pageや
E-mail addressが細かく載っているので手引きとして使える。
3. Switzerland(The Culture Guideシリーズ;トラベルジャーナル社) : 読み物として楽しめる。
4. スイスアルプス・ハイキング案内(山と渓谷社) : 代表的な46のコースが紹介されている。
約4000円とお高いが、美しい写真を見ると全コースを踏破したくなる。 |
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