日本船舶海洋工学会 関西支部 海友フォーラム K シ ニ ア
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海友フォーラム 第10回懇談会 報告

文責 小林幹弘

1. 日時 : 2010年4月23(金) 14:00~18:00

2. 会場 : 川重パトリシア会館

3. 参加者 : 14名  (敬称略) 

  赤木新介、 岡本 洋、 神田修治、 栗原一郎、 黒井昌明、 塩田浩平、 須藤邦彦、
  津垣昌一郎、 外山 嵩、 長野 健、 塙 友雄、 藤田 實、 渡辺俊夫、 小林幹弘


4. スピーチ

演  題 : CO2削減と地球温暖化
 PART 1  地球温暖化について             スピーカー 須藤 邦彦 さん
 PART 2  国益からみたCO2削減と地球温暖化   スピーカー 津垣 昌一郎 さん
 関連   温室効果ガス → 地球温暖化 は本当か? ( By Power point)  岡本 洋 さん
配布資料 : ・CO2削減と地球温暖化 PART 1 地球温暖化について
・(Part 2) 国益からみたCO2削減と地球温暖化
関連資料 : ・翻訳グループの スピロ博士の論文の目次

 4-1 地球温暖化について ~ 須藤 邦彦 さん
    (1) 温暖化の現状と課題
      ・環境問題の発生の要因―世界人口の増加 → 食糧・エネルギー・資源・平和問題
                        大量生産/消費/廃棄の経済システムの進展
                         → 産業公害・都市生活型環境問題・地球的規模の問題
      ・現在の環境問題 
         公害7項目 ~ 大気汚染/騒音/振動/悪臭/土壌汚染/地盤沈下/水質汚濁
         地球的破壊の環境問題 ~ オゾン層破壊/地球温暖化/酸性雨/熱帯林減少/砂漠化
                          野生生物減少/有害廃棄物の越境移動/海洋などの汚染
      ・課題への対応 → 持続可能な開発(Sustainable Development)の概念の導入                         
    (2) 地球温暖化について
      ・地球温暖化のしくみ ~ 温室効果気体(Greenhouse Gas)の魔法の毛布
                      産業革命以後CO2排出が増え濃度が上昇し温暖化進行
                        = > +2°C上昇の危機説
                    ~ 現状の分析において自然現象の範囲とする意見とトレンド
                       と見る(温室ガス増加による)説があるとか
    (3) 地球温暖化防止への対応
      ・世界的な主要な動き
         + 京都議定書 ― COP3の合意 ~ 限界がある
         + COP15コペン合意 ~ 削減目標につき認識の乖離
         + COP16メキシコで再協議の予定
      ・2度危機説の合理性? - グリーンランド融解を防ぐ限界
      ・京都議定書の発効
         日本は 1990年比 2020年までに25%削減 ~ どうするか?
         省エネの推進と森林保護・植林は実現可能だが
         水力原子力太陽光など発電システムの推進や燃料転換はどうか?
       ・日本の温室効果ガス削減目標 ~ 2020年までに25% 2050年 80%
         政策動向 ― 方針に基づき法整備と行程表 ― が策定されているが・・・
    (4) 地球温暖化と海洋の関係 ~IPCC第4次評価報告書~
       ・海洋 ― 水温 水深3000mまでの平均水温は上昇
              塩分 中高緯度で減少 低緯度で上昇
              将来問題として懸念 ~ 海洋生態系の変化/水位の上昇/CO2吸込み量減少
                  深層循環の弱化など
         + 20世紀期間中に平均17cm上昇
         + 今後100年間で 18~64センチ上昇するシナリオもある
      ・酸性化 ― CO2取り込みで0.1pH 低下 21世紀中に0.14~0.35 pH 減少と予測
      ・海の役割 熱容量大 ― 温まりにくく 冷めにくい 但し 熱を吸収すると水位上昇
              温室効果気体取り込み 吸収にも限度
              生物の存在(多様な生物の宝庫) 生態系の変化が危惧される
    (5) 取り組むべき課題
      ・温暖化防止 = 化石燃料ベースの温室効果ガス排出削減
           + ボトムアップとトップダウンで
           + 木材は再生可能なエネルギー源としての認識
           + 世界に目を向け 事実を知る
        <世界に約束した目標>
               CO2を2008~2012までに6%削減
               2020までに25%削減
          ライフスタイルを見直そう → {環境の心}
            ~ 日本に伝わる「環境の心」とは
            ― <もったいない> ~ 「物の本体を失する」を 忘れない。-

 4.2  国益からみたCO2削減と地球温暖化 ~ 津垣 昌一郎 さん
       ~ 須藤さんのスピーチを受けての考察 ~
       - CO2削減は時代の要請とはいえ 日本にとってのこれ以上の削減は重荷 ―
       - 地球温暖化に対しては焼け石に水の感 ― などの観点を前置きとして以下紹介 ―
    (1) 温室効果ガス削減の日本の概況
       * CO2による地球温暖化は共通認識!
          ・プラス2度危機説を起点に温室効果ガスの削減は必要
       * 日本の中期目標
          ・2020年 迄に25% 2050迄に 80% 
          ・取り引き制度の導入と原子力発電の推進
          ・地球温暖化税の検討 など
       * 日本の排出量と削減効果
          ・日本は世界の 4.5% にすぎない
          ・日本が25%削減しても 100年後の気温上昇への影響 ― 0.1°
       * 日本の省エネ成果 → 省エネ努力・技術は世界一
          ・GDP比 最小レベル ~ フランス=原子力  カナダ=水力 で別格だが・・
       * 日本の削減努力の考察
          ・現政府の目標とする25%削減 → 100年後 0.1°の貢献のみ
          ・すでに日本はCO?排出量は少ない
          ・「京都議定書」「25%削減」 → 1~5兆円/5年 の資産流出
    (2) CO2 25%削減のメリット/デメリット
            ~ 「経済成長」 「資源エネルギー問題」 との両立の前提が課題として ~
            ~ 25%削減はハードルが高すぎる ~
       * メリット
          ・原子力発電の推進には追い風
          ・国民の省エネ理解の助長 
       * デメリット 
          ・海外排出権購入(1兆円/5年)の流出
          ・企業の生産抑制 → 経済成長阻害
          ・国民所得減―13~65万円/年 の試算
    (3) 日本の進む道は
       * 25%削減に血道を上げるのはナンセンスではないか?
       * とはいえ 世界の後進国の理解を深めるためには先駆者として必要か?
           (米・中の国益重視の姿勢~既然たる国家への忠誠心とみるか)
       * 地球的規模の立場でみれば削減努力―>方向としてはやむなし
          先導的立場で推進するとしても 国益優先の国々をどう公平に巻き込むか
       * その中にあって 「船」「海運」がどう関わるのか~

   = 温室効果ガスが地球温暖化に関わり 削減が至上命題としてもどう展開するのが正か? =

 4.3 討議の話題として  岡本 洋さん
    ~ 環境問題 温室効果ガス削減が今後の不可欠な課題としても異常気象や温度上昇を
      その所為だけに求めるのはどうかという議論が多数あるとの観点で概略紹介あり ~
    * 温室効果ガス削減の話題は色んな切り口で考える必要あり さながらある種の
       経済戦争ともいえる。 → 国益をベースに政策的な要素のあることも否めない!
    * 温度上昇が温室効果ガスの所為であるとする多数の文献がある一方
       「温室効果ガス懐疑論」 はたまた 「温室効果ガス懐疑論批判」 と議論百出。
    * 地球温暖化説も否定的な意見もある。
    * 実態がどうあれ 産業革命以後の活動が自然界~生態系~に何らかの影響を与えている
       とは言えよう。
    * その観点では温室ガス削減課題と経済活動阻害の両面から考えることは必要だろう。
    * そうだとして 船舶・海運の占める割合はどうであろうか?
        ~ 少ないからと言って免罪というわけではないから 課題としては残る。
              など 短い時間で各種の意見の紹介と問題提起あり 
    * また関連として 現在翻訳グループが手掛けているスピロー博士の
      [Global Climate Change and Shipping Industry] を 
      「地球上の気候変化と海運業界」 と題して翻訳中の作業の紹介があった。
      代表者の間野先生は参加出来ないのでメンバーの一人の神田様より補足あり。
      送付頂いた目次によれば 今回の話題にふさわしい資料のように思えた。
      一部原文そのものも修正が加わる部分もあるようなことではあるが ほぼ翻訳作業は完了
      しているとのこと。    


5. 討議 (順不同)

 ~ 須藤さんより「地球温暖化」の問題の紹介があり それを受けて津垣さんから
    日本の「CO2削減活動の必然性と経済活動への影響の問題」などの指摘があった上で
    岡本さんより 「地球温暖化の真偽」 とか 「温暖化と温室効果ガスの関係の議論」 の問題点
    などの指摘があった。
    これらについて大いに議論を深める必要はあるものの司会の力量不足もあり十分な結果には
    結びつかなかったが 意見の概要を今後の話題への展開を期して以下に記す。
    記述者の独断と偏見をともなっていると危惧されるので おおよその意見の概要としてご了解頂き
    間違いや誤解はご寛恕下さい ~

 * 気候変動の原因は地球温暖化にありその元は温室効果ガスによると言う事実はどの程度
    信憑性があるのだろうか?
 * 日本の掲げる温室効果ガス削減の方向性は誤りではないとしても まじめに取り組むと経済成長の
    阻害要因となり 公平性の問題と日本の発展に悪影響はどうか?
 * 氷河の後退とか島国ツバルが海に沈む恐れありと言うことも事実なのだろうが地球温暖化の傾向に
    あると言う事実は誤認であると言う話もあるし 一部のデーター改竄(かいざん) の疑いもあるという。
    岡本さんの紹介もあるように世界的レベルでみるとひとつの経済戦争の様相ともいえるのか。
 * 短期的な現状ではむしろ地球冷化の傾向もあり また以前の塙さんのお話のような地球の創世紀
    からのロングスパンでみるならば最近の異常気象といえどもミクロの話なのかも知れない。
 * フランスが原子力発電に大きく依存しているため温室効果ガス対策の優等生であるが 原子力発電
    すらトータルで考えると本当に地球的にみて正しい方向といえるのだろうか? 
    建設に至るまでにおける影響を考慮する必要があるし 廃棄物の処理も果たして 完全に無公害と
    言えるのだろうか?
 * フランスが原子力に頼る一方隣国のドイツは原子力を無視している事実をどう考えるか? あたかも
    かっての独仏の関係を暗示しているようにも見える。
 * 排出量の多い米中が削減対策に本腰を入れないのは何とも問題ではあるが 排出権取引きも
    本当に妥当なものであろうか? 日はそれに頼っているがそれによる資力流出は問題になるレベル
    で莫大 → 企業競争力引いては国力維持に影響
 * ソ連も広大な森林のおかげて排出量の観点からは 優等生ではあるが 基準時点での工業力の低い
    状況であったことから 正しい評価になっているかは疑問である。
 * 先進国は開発途上国の発展を抑制し ガス類の発生を危惧するが 先進国のそのような抑制は
    開発途上国の発展を抑える目的として反発している。
    それらの両者の狭間にあって 日本が模範的に的確な削減目標を目指すことはほめられたこと
    ではあるが 日本の工業力を阻害して悪影響が出てくることが危惧される。
 * 岡本さんのご紹介にあるような 「温室効果ガス原因説」 に始まって 「懐疑論」 「懐疑論批判」と
    両相対する面からの議論百出。
    何をどう考えるかが問題ではあるが 産業革命以後 化石燃料をベースとする工業の急激な発展
    に伴う諸々の自然界への影響はどんな形になるかはべつとして看過できないとするのは妥当で
    あろう。
    自然界における自浄作用に期待する所があるにしても 可能な限りのブレーキを踏むのは正しい
    方向ではなかろうか?
 * 各産業・業態において等しく 排出量の抑制をその限りにおいて努力すべきであるが 船舶は
    相対的には省エネ・好環境型であることは間違いない。 その中において相対的には影響力は
    少ないと考えるべきである。 (やらなくて良いと言うことでなくその観点からの対策とPRをすべき)
 * スピロ博士はその点も考えられて論文を出され それを翻訳の対象とされた翻訳グループの烱眼に
    敬意を表する。   

        他にも多数の意見交わされた。 → 今後さらなる議論を深めて頂きたい!!
 

6. 次回予定
     7月後半 下記の如く シニアクラブが開催されるが  別途海友フォーラムとしても予定
              ↓
     シニアクラブ 総会・交流会を7月17日(土)に予定していることを連絡

                                                         以上 



 添付資料 翻訳グループ 翻訳中の文献の目次 
 原文 ― [Global Climate Change and Shipping Industry]  スピロ博士 著
 訳題 ― 「地球上の気候変化と海運業界」 - 間野先生ほか翻訳グループ


 第1部
 まえがき 
 第1章 地球上の気候変化と環境
 第2章 生活圏と地球上の気候変化
 第3章 メタンと水酸化メタン
 第4章 惑星地球の脱炭素化
 第5章 国際極地年
 第6章 地球温暖化の論争
 第7章 環境状態指標  (The Environmental
           Performance Index - EPI )
 第8章 エネルギと世界の気候
         - イタリ―に於ける会合
 第9章 地上、海上及び航空輸送
         - 世界に気候に対する影響
  第10章 地球上の気候変化と社会の関心
  第11章 産業界の放出と京都議定書    
  第12章 地球上の気候変化と倫理的考察
  第13章 エネルギと現在のエネルギ源
  第14章 化石燃料:原油、石炭及び天然ガス
  第15章 有機燃料
  第16章 非化石燃料系からのエネルギ
  第17章 商業用核エネルギ
  第18章 核分裂と核融合
  第19章 エネルギと地球の環境
  第20章 水素燃料化の経済


 第2部
 第21章 地球上の気候変化と商船
 第22章 商船と海洋環境
 第23章 商船と環境基準
 第24章 商船による大気汚染
 第25章 大気中への船舶からの放出
 第26章 海洋炭素放出
 第27章 海運界と温室効果ガス
 第28章 商船からの大気への放出管理
 第29章 商船の陸上電源の利用
 第30章 商船用の真実で実質的な
       二酸化炭素指標の確立に向って
 第31章 硫黄除去装置
 第32章 燃料消費減少の為の推進装置の
       提案
 第33章 経済船と海洋環境
 第34章 経済船と廃棄物処理
 第35章 異常海象
 第36章 異常海洋波
 第37章 湾流現象
  第38章 世界の海洋波統計
  第39章 商船と海上の安全
  第40章 船体構造
  第41章 船体構造と船体強度
  第42章 タンカ―と船体構造への
              スロッシング効果
  第43章 船体構造の古い鋼板の
            新しい鋼板への取替え
  第44章 商船の船体設計技術
  第45章 SAFEDOR
        ― 欧州基金による計画
  第46章 商船用船体応力検出
  第47章 地球上の気候変化と造船技術者
  第48章 地球上の気候変化と船級協会
  第49章 商船と軍艦の共通構造規則と
                     船級協会
  第50章 エネルギ効率の良い商船の設計
  あとがき
  参考文献